「兄さんは、ペンダントを守るため命を落とした。氷で作られた結晶へ保存したのは、兄さんの死を受け入れられなかった父なんだ」

 王河さんは、死んでいなかった。
 特殊な氷のおかげで、コールドスリープ……いわゆる冷凍睡眠状態になって、十五歳の姿のまま目覚めたのだろう。

 チグサさんはそう考えたみたいだけど、むずかしいことはよくわからない。
 でも、連れ去られたとき、王河さんが言った話は本当だったんだ。

「生きているなんて、思いもしなかった」

 今日あったことを思い出しているのか、とてもつらそう。
 無理もないよ。せっかくお兄さんと会えたのに、別人みたいになっていたのだから。

 わたしより少し大きな手の上に、手を重ねた。

「なにか、理由かあるんだと思います。王河さんは、変わらず先輩を大切に思っているはずです」

 少し間があいて、目の前が真っ暗になる。
 甘くて優しい香り。やっと、抱きしめられていることに気づいた。

「せんぱいっ……」
「リリア、ありがとう。今度、正式に僕の恋人になってほしい」

 なんと返事をしたらいいのか。
 頭の中は真っ白だけど、頬は庭のバラみたいに赤くなっていく。

「でもね──」

 耳元でささやかれた言葉で、さらに熱が上がる。ドキドキが止まらなくて、わたしはそっとまぶたを閉じた。

 その日は、同じ部屋で眠りについた。
 手をつないだまま、お互いによりそって。
 物語で読んだ悪魔と天使が、結婚の約束を交わしたときのように。