最初はじたばた暴れたけど、どうあがいても空の上。すぐに大人しくして、必死に首へしがみつく。落ちたら、生きて帰れない。

 しばらくして、たどり着いたのは、一軒(いっけん)の古い家。ガラス張りの窓は、真っ黒のカーテンでおおわれている。

 ずいぶん遠くへ来たみたいだけど、ここはどこなんだろう。もうすぐ夏なのに、空気が冷たい。

 角の方にうずくまりながら震えていると、バサッと毛布が投げられた。

「寒かったら、これ使いな」

 軽くおじぎをして、くるまる。あったかい。
 だんろのまきに火をつけて、その人は手をこすり合わせながら。

「怖い思いさせて、悪かった」

 寂しそうな目をして、オレンジの炎を見つめている。

「ほんとに、夜宮先輩の……お兄さんなんですか?」

 記憶の中の彼は、とても紳士的で優しいイメージで、あらあらしさとはかけ離れていた。

 それに、亡くなっているはずの人が、どうやって……。悪魔が不老不死(ふろうふし)なら、話は別だけど。