それに今、わたしを花嫁って。

「……生きて……たのか? でも、どうやって、あそこから?」

 動揺しているのは、夜宮先輩も同じ。
 チグサさんも、驚きを隠せないみたい。じょうろを持ったまま、放心としているから。

 ブルブルと震えながら、妖精たちも植物の葉に隠れてしまった。

「何年だろう。俺が眠っている間に、おかしなことになっているようだな」

 身長も見た目も、ほとんどうりふたつである夜宮先輩の前に立ち、その人は目を細めて吐き捨てる。

「返してくれないか。俺が預けた、大切なもの」
「兄さん、その話し方……髪の色も変だ。年とってないし、じゃなくて、どういうことなのか全然」
「悪いな、紅羽。あまり話しているヒマはない」

 まがまがしい翼を大きく広げて、わたしの腰をすくい上げる。

「えっ、ヤダ、怖い! 降ろして!」

 体はいとも簡単に持ち上げられ、空を舞い上がった。

「リリア!」

 追いかけて飛ぼうとする先輩を、チグサさんが止めている。離せと抵抗する姿は、あっという間に小さくなって。

「先輩、助けてください!」

 わたしが叫んだときには、時すでに遅し。
 風を切り、悪魔の翼が嵐のごとく突っ走り、見たこともない場所へと向かっていた。