どうしたんだろう?
 夜宮先輩の目線に合わせて、ゆっくりうしろを向く。

 そこには、全身ずぶぬねの人が立っていた。黒髪の毛先が白くて、整った顔。見たことがあるというか、すごく似ている。


「……兄……さん?」

 そう、夜宮先輩に──。


「えっ?」

 ポタポタと髪から水をたらしながら、兄さんと呼ばれた人が近づいてきた。

 目があって、緊張が走る。そんなわけがない。お兄さんは七年前に亡くなったと聞いた。
 それに、目の前にいる人は、わたしたちと同じくらいの男の子だから。

「兄さん、だよね?」

 もう一度、夜宮先輩はつぶやくように話す。
 その人が伏し目がちなまぶたを上げると、するどい視線が現れた。

 記憶の初恋の印象とは、だいぶ違って感じる。
 黙ったまま、地面に落ちている花冠を拾って、わたしを見た。

「リリアは、俺の花嫁だ」


 ──え?

 目つきは悪いけど、まっすぐ見つめてくる瞳は、やっぱり先輩と似ている。ほんとうに、あの写真に写っていたお兄さんなの?