夜宮家は、負のオーラを食べない。自分たちのために、誰かを不幸にしない。それどころか、人を守ろうとしている。
 今は難しくても、いつかはみんなにわかってもらえるといいな。

「そのために、リリアとは仮じゃなくて、本契約したいな。なるべく早く」

 にこっとして、夜宮先輩がわたしの手をとる。

「本……契約?」

 ハテナを並べて、ハッとなる。

 そういえば、仮で恋の契約をしていたのだった。忘れてしまうくらい、特別なにかあるわけではなかった気がするけど。

「今までは、悪い虫がつかないようにって、簡単な(しるし)をつけていただけだったけど」

 言いながら、わたしの小指に人差し指を置く。
 赤く光ったと思ったら、つまむようにしてひっぱった。
 糸みたいに伸びて、絡まっていた光がぷつんと消える。まるで、運命の赤い糸みたい。


「僕と、正式に婚約してほしい」


 てん、てんと無言が続いて、大きく空気を吸い込んだ。

「えっ、ええ──っ!」

 紅茶と同じ、苺色に染まった頬をおさえて絶句する。
 正式にプロポーズされてしまった。お付き合いらしいことも、何ひとつしたことがないのに。