「さあ、エンジェル・ダークを」

 ガブッ──。
 しめつけている腕を、思いきりかんだ。うすいシャツの上からでも、くっきり跡がつくほど強く。

「いっ、いってぇ!」

 やった、先生の力がゆるんだ。そのすきに突き飛ばして、夜宮先輩の元へかけ寄る。

「大丈夫ですか?」

 ネックレスをにぎる手が震えている。

「やっぱり、僕では使いこなせないのか。兄さんなら、リリアをこんな目に合わせなかっただろうに」

 うつむいたまま、夜宮先輩がゆっくりと立ち上がった。とても苦しそうで、見ていられないほどつらそう。
 腕を押さえた吉田先生が、じりじりと近づいて来る。

「おまえら、先生をバカにするのもいいかげんにしろよ。今度は、ようしゃしないからな」

 一八〇センチはあるであろう悪魔を前にして、恐怖で足がわなないた。

 開かれた手の中に、黒いうずが現れる。全てを吸い込むように、胸のネックレスが風に引き寄せられていく。

 ダメ。これは、絶対に渡さない。
 ゆっくり両手で包み込みながら、なんとか自分の元へとどめる。

「天使よ、我に力を──」
「リリア、ネックレスだ。兄さんのネックレスで、封印するんだ」
「わたしが……そんなこと……」

 できるわけない。
 弱気な心を見透かされたのか、夜宮先輩がぐっと肩を抱きしめて、わたしの手の上に自分の手を重ねる。
 不思議と力がわいてきて、ネックレスが光り始めた。