わたしの心臓あたりで、吉田先生がくいっと指を曲げる。
 恐怖でまぶたを強くつぶったら、赤い光が現れた。隠してあったネックレスが、ふわりと浮かび上がっている。

「……これがあの、幻と呼ばれるエンジェル・ダークか」
「その手を下ろしてください。吉田先生」

 バサッと黒い翼が広がって、気づくと目の前に夜宮先輩がいた。わたしの首をつかもうとする手を、さえぎって。
 瞬間移動でもして来たのか、雨のように羽根が飛んでいる。

「あともう少しだったのに。やっぱ邪魔だなぁ」

 ふりかざしたこぶしが、先輩の翼をかすった。ふわりとよけて、ドア側に降り立つ。

 とっさに、ネックレスを手でおおって隠す。次の瞬間には、吉田先生の腕に捕まっていた。顔をぐっとしめつけられて、苦しい。

「おとなしく力を渡してもらおうか」

 すごいパワー。これが、大人の悪魔。
 エメラルドの光が現れて、呪文を唱える声が聞こえてくる。前みたいに、夜宮先輩がなんとかしてくれる。

 けれど、だんだん輝きは小さくなって、消えてしまった。
 そのうち、ペンダントを持った先輩が、ガクッと床にひざまづく。なにが起こったの?

「あーあ。残念だったな。夜宮くん、不幸食ってないだろ。力が弱くて、守りきれなかったなぁ」

 ハハハとあざ笑う声が、小さな資料室に響いた。
 夜宮家は負のオーラを食べない代わりに、月に一度、エネルギーを補給すると聞いた。それだけでは、充分じゃなかったんだ。

 くそっと、夜宮先輩が悔しそうに顔をゆがませている。