「えーっと、続きいい? 資料室で待ってるって」

 タイミングを探っていたのか、男子生徒はやっと伝えられたという表情をしている。

「ごめんね、行かなきゃ」

 トーコちゃんの手を、そっと下ろす。
 もしかしたら、佐原くんを操っていた悪魔の正体がわかったのかもしれない。

 教室を出て、全速力で廊下を走る。うしろから名前を呼ぶ声がしたけど、振り向かなかった。
 息を切らしながら、三階の資料室へ入るけど、誰もいない。

 ガチャッと鍵をする音がして、そろりと顔をうしろへやった。

「せん……ぱい!」
「こんにちは」

 背中がゾクリとして、足がすくむ。そこにいたのは、ヨッシーことバスケ部の吉田先生だった。

「えっと、わたし、ここで待ち合わせしていて」

 とりあえず、なにか話さないと。
 薄暗くなった個室で、ドアとは反対へ下がる。

「知ってる。それ、先生だから」
「……え?」
「夜宮の名前を借りて、君のクラスメイトに伝えてもらったからさ」
「なんの……ために」

 じりじり近づいてくる吉田先生から、遠ざかるように後ずさりする。
 おだやかでカッコいいと評判の先生が、見たこともない目つきの悪さで、わたしを壁へ追い込んだ。

「しらばっくれんなよ。めんどくせぇ」

 あまりに低くて圧のある声に、ビクッと肩がしずむ。

 怖い。どうして。やっぱり。さっき感じた人影は、吉田先生だった。頭の中はパニック状態。真っ白になるとは、こうゆうことなんだ。

「天塚リリア。おまえは、天使の力を持っている。それを手に入れて、俺は自由になるのさ」