人の少なくなった放課後の教室。ステルラ占いの本を逆さに持って、トーコちゃんがぶつぶうと何かつぶやいている。

「間違いなく、屋上にいたはずなんです。唯野くんも同じことを言っていました。これは、ミステリーです」

 今朝のことを根に持っているらしく、ずっとこの調子だ。
 本当のことを話すわけにはいかないから、「なんでだろうね」なんてとぼけて返している。

 わたしって、ひどい友達なのかもしれない。
 ごめんね、トーコちゃん。


「天塚さーん、バスケ部の夜宮先輩が用事あるみたいだけど」

 クラスの男子が、廊下から顔を出した。

「あっ、今行くね」

 なんだろう。
 ガタンと立ち上がると同じタイミングで、ガシッと腕をつかまれた。

「二人きりで会うのは禁止したはずですよ」

 トーコちゃんの眉が、さらにキリリと上がる。

「心配してくれてありがとね。夜宮先輩はいい人だから、大丈夫だよ?」
「だとしても、行かないでください」

 首をふるトーコちゃんは、今まで見たことのないくらい必死に思えた。

 たしかに、夜宮先輩は悪魔だ。これは曲げられない事実。
 でも、優しい心を持っていて、寂しさのわかる人なの。