「悪魔の翼を持っているは、その……」

 言いづらそうにするのを気づいてか、夜宮先輩がフッと笑って。

「僕だけ、なんでしょう?」

 積み上げられている本から、ニ冊の資料を手にした。ひとつは歴史、もう一方は地理。

「悪魔にもそれぞれ特徴があって、得意とするものも違うんだ。まれに、姿や翼を隠せるタイプもいる。お化け屋敷にいた悪魔もそれだね」

 そういえば、ファンタジーランドのスタッフも、黒い翼は見えなかった。
 だとしたら、どこにひそんでいるか目だけでは判断できないことになる。

「実は、さっき」

 シーッと、人差し指がくちびるに当てられる。

「むやみに、心のうちを口にしない方がいい。気をつけていても、誰が聞いているかわからないからね」

 二人だけにしか聞こえない声で、夜宮先輩の口が動く。近すぎて、ドキドキが伝わってしまいそう。

「僕も気になる人物がいてね。調べてみるから、リリアはなるべく関わらないようにして」
「はい」

 頭をなでられると、胸がキュンと苦しくなる。抱きしめてほしいなんて、わたしはおかしいのかな。
 資料室を出てからも、しばらく、ほわほわとした気持ちが消えなかった。