「あの、リリちゃん? あまりにつめ込みすぎじゃないかしら?」

 茶色のカバンを手に持ちながら、トーコちゃんが不思議そうにわたしを見る。

 下校のしたくをしていたはずが、知らないうちに持って帰らなくてもいい書道セットまで、リュックに入れようとしていた。

 あぶない。もう少しでファスナーを破壊するところだった。

「今朝言っていた【運命的な出会い】が原因ですか? それとも、お昼に伝えた【明日の真っ黒注意報】が……」

 書道セットを机の横に戻そうとしたけど、手が滑ってガシャンと床へ落ちる。

「そ、そうゆうことじゃないよ? ただ」
「それほど似ていたのですね。夜宮紅羽と、初恋の泥棒さんは」
「ドロボウ呼ばわりしないでよぉ」
「でも、大切なもの、盗まれたのでしょう?」
「……うっ」

 するどいツッコミと冷静な顔に、何も言えなくなる。

 初恋の話を知っているのは、小学生の時から一緒にいるトーコちゃんと、隣のクラスで幼馴染の唯野(ゆいの)玲央(れお)ことレオだけ。

 好きとはちょっと違うけど、ずっと憧れてたりする。空想でしか存在しない怪盗ルパンのようなダークヒーローに会った気分だった。

 穏やかに話すあの人は、不思議と怖くなくて。もらった赤いネックレスだって、まだ宝物入れにしまってあるくらい。

 小さいながら、王子さまってほんとにいるんだって思ったの。