結局、質問の返事はあやふやなまま、学校へ着くまでギスギスした空気は続いた。
 中央玄関で靴を脱いでいるとき、校庭に佐原くんの姿が見えた。ほんとうにもう、大丈夫なんだ。

 レオに教えようとしたけど、黙ったまま先に行ってしまった。
 ずっと目を合わせてくれないから、わたしも気まずくて。そのまま上履きを履く。

「おはよう」

 声をかけても、佐原くんの反応はない。まるで聞こえていないみたいに、わたしの後ろを通り過ぎていく。

 昨日、いきなり家へ行ったこと、怒ってるのかな?

 なんとなく気になって、うしろ姿を目で追っていく。教室とは、真逆の階段へ向かっている。どこへ行くつもりだろう?

 こっそりあとをつけて行くと、二階へ上がったところでトーコちゃんが現れた。少し離れているから、わたしには気づいていないみたい。

 佐原くんを追うトーコちゃんを尾行していたら、誰もいない屋上へ着いた。立ち入り禁止のプレートを無視して、二人はドアの向こうへ進んでいく。

 少し開いたままになっているドアのすき間から、様子を確認する。

「どうしても、昨日のことが気になって。佐原くん、なぜリリアちゃんにあんなことをしたのですか?」

 落ち着いた口調で、トーコちゃんが話しかける。
 でも、佐原くんは背を向けたまま何も答えない。

「あなた、もしかして、悪魔なのでは……」

 そのとき、とつぜん佐原くんが振り向いて、思い切り手をふり上げた。