「よお」

 家を出るなり、レオが声をかけて来た。少し距離を置いて、気まずそうにしている。
 今日も朝練はないのかな。あまり気にしないで、おはようと返す。

 坂をくだり終えても黙ったままで、こっちが落ち着かない。なんだろう?

「……リリアさ、昨日、帰って来なかったらしいな」

 言いづらそうに、レオが口を開いた。
 心配したお母さんが、レオの家に連絡したんだ。だから、さっきから様子が変だったのか。

「誰といたんだよ」

 ズボンのポケットに手をつっこんだレオが、のぞき込んでくる。その頬が、心なしかほんのりと赤らんでいた。

「今は、言えない」

 幼なじみのよしみで、レオはなにかと気にかけてくれる。
 申し訳ない気持ちもあって、顔をそらしたとたん、肩を引かれて抱きしめられた。


「……先輩、じゃないよな?」

 頭の上で、つぶやくような声がする。
 見つめられて、不覚にもドキッとしてしまった。だって、すごく切なそうな瞳をするから。

 すぐ後ろから、チリリリンといきおいよく自転車が走って行って、近づいていた体が離れた。

 びっくりした。なにが起こったのかと思った。

「気をつけろよ」
「あ、ありがとう」

 レオが気付いてくれなかったら、もう少しで自転車とぶつかっていた。ヒヤッとしながらも、なんだか心がすっきりしない。