耳元でささやきが聞こえて、一瞬にして飛び起きた。目の前には、微笑ましそうにする夜宮先輩。

 そうだ、昨日あれから寝てしまって……握っていたはずの手が、反対に握られていた。

「あの、すみません……! わたし、心配で」

 お風呂でのぼせたみたいに、顔が真っ赤になっていく。

 ここにいた言い訳が見つからない。勝手に扉の奥へ入ったこと、となりで夜を明かしてしまったこと。
 不思議な夢を見ていた気がするけど、あまり思い出せない。

「真っ暗な夢の中で、リリアの声が聞こえたよ。助けに来てくれたんだね。ありがとう」

 そう笑って、先輩がわたしのおでこにキスをした。

 キャーーッ! 心の中では叫んでいても、ギュッとまぶたを閉じてこらえている。

 ふわっと頭が包まれて、大きな手になでられた。
 ドキドキしながら顔を上げると、目と目が合う。赤みの強い茶色。悪魔の色をしているけど、とってもあたたかい瞳。


 わたしは、夜宮紅羽という優しい悪魔さんに、
 ──恋をしてしまいました。