「夜宮家は、それらを一切口にすることはありません。そのため、魔力が弱ってしまうので、月に一度だけエネルギーを補給するのです。先ほど行かれた、永遠の入り口へ」

 となりにあるアンティークテーブルに、ティーカップが置かれる。ほんのり甘いミルクティーの香りだ。

「ギリギリまで、耐えておられたのでしょう」

 今日は、目覚めないかもしれない。そう言い残して、チグサさんは部屋を出て行った。


 洞窟の氷のことは、聞けなかった。口にしては、いけない気がして。


 ──満月の夜は寂しいんだよね。そばにいてくれる?

 ──悪魔はワルイ生き物って、決まってる。


 夜宮先輩は、お兄さんを失ってから、ずっと寂しい思いをしてきたのかな。
 誰かに頼ることもできなくて、苦しんで、人を傷つけないように生きてきたのかな。

 そう思ったら、胸が張りさけそうに痛い。

 この広い部屋で、先輩をひとりにしておけないよ。

 そっと伸ばして、大きな手の上に手を重ねる。ギュッと握ると、眠る先輩の横に顔を倒した。


「……先輩、わたしがいますから。安心してくださいね」

 プイプイが電気を消したのか、部屋から明かりが薄れていく。知らないうちに、わたしは眠りについていた。