ホッとして、帰ろうかと背を向けたとき。ぐっと腕を引っ張られた。

「天塚さん、上がっていきなよ」
「えっ」
「天塚さんだけでいい」

 すごい力。いくら運動部の男子でも、こんなに強いなんて。引きずり込まれてしまいそう。

「い、痛いよ」

 ふり払おうとした瞬間、先に二人の手が出ていた。トーコちゃんはわたし、レオは佐原くんの手を引き離して。

「なにしてんだよ、おまえ」
「リリちゃんに気安く触らないでください」

 わたしをかばうようにして、トーコちゃんに抱きしめられる。
 動きを止めた佐原くんが、急に電源のスイッチが入ったような顔をした。

「……あれ? ごめん、俺なにしてるんだろう」

 まだ体調が万全じゃないからと謝って、佐原くんは家の中へ入った。

 つかまれた腕がズキズキする。
 なんだか様子がおかしかった。

「大丈夫か?」
「うん、平気だよ。レオ、トーコちゃんもありがとう」
「当然のことをしたまでです」

 病み上がりで、気が変になっていたんだろう。二人はそう言って、深く追求することはしなかった。
 その方がいいよね。気にはなったけど、わたしも帰ることにした。