カーテンから降り込む朝日がまぶしい。
 いつも通り甘いハチミツトーストを食べて、鏡の前でにらめっこをする。目を大きくしたり、イーッと歯を出してみたり。

「うーん。特になにも変わりなし」

 両頬をギュッとつまみながら、小さくため息をはく。

 昨日はよく眠れた。これ以上ないくらいに、それはもうぐっすりと。
 私って、思ったより図太い神経の持ち主なのかも。


「よっ、学校まで一緒に行こうぜ」

 家を出たら、制服のポケットに手を突っ込んで、レオが立っていた。となりの家だから、いてもおかしくはない。
 でも、違和感たっぷりで、返事より先に疑問が浮かぶ。

「バスケの朝練はどうしたの?」

 いつもなら、レオはもっと早い時間に学校へ着いているのだ。

「今日は中止だって。なんか、最近休んでる奴多くて。練習になんねーの」
「そんなに?」
「佐原もずっと休んでるし」
「めずらしいよね。変な風邪でも流行ってるのかな」
「リリアも気をつけろよ」
「うん、レオもね」

 佐原くんが休み出して、二週間になる。たしかに、風邪にしては長すぎる。
 もしかして、欠席しなくちゃならないことでもあったのかな。

 坂を(くだ)り、駄菓子屋の前を通る。閉店しましたの貼り紙を見ながら、レオがポツリと言う。

「ここのばあさんどうしたんだろうな。年だったし、元気だといいけど」

 ズキンと胸の奥が痛くなる。
 うなずくだけで、何も答えられなかった。

 あの人は悪魔で、お父さんが封印したなんて。心配そうにするレオに、言えないよ。