ガシャンと、トレーを落とす音が響く。
 ドアの前で、チグサさんが真っ青な顔をしていた。

「クレハ様」
「死んだよ。七年前、まだ幼かった僕をかばってね」

 思わず、口を手でおおう。声が出なかった。

 七年前って、わたしのペンダントが盗まれた時期と同じ。ただの偶然? かばってって、なにがあったの?

 心臓のドキドキが大きくなっていく。

「これは、兄の形見(かたみ)なんだ。たとえリリアでも渡せない。約束したから」

 言いながら、シャツの中からチェーンを取り出した。

 エメラルドグリーンのペンダントには、天使と悪魔の力が宿っている。ワルい悪魔たちが狙っていると知り、悪用されないようお兄さんが保管していたらしい。

 今は、夜宮先輩が代わりに守っているのだと。見ていたチグサさんが、震える声でつぶやいた。

「まさか、彼女がそうなのですか。我々が探し求めていた……」
「リリアは、僕らのプリンセスだよ。悪魔と天使を繋ぐ、奇跡の女の子」

 一体、なにが起こっているの?

【大きくなったら、今度は君をさらいに来るね。小さなお姫さま】

 とつぜん、頭の中に降ってきた声。
 ずっと憧れていた人は、きれいな目でわたしに告げた。目の前に立つ夜宮先輩と重なって、消えていく。

 初恋の人は、夜宮先輩のお兄さんで、すでに亡くなっている。

 わたしが、奇跡の女の子──プリンセス?

 その瞬間、ふわっと体の力が抜けて、わたしは倒れこんだ。