いつの間にか女子たちが窓側に群がって、校庭へ手を振っている。

 夜宮先輩って、誰だろう?
 聞いたことのない名前。

 チラッと下へ視線を送ると、三年生らしき人たちが歩いているのが見えた。

「三年A組の夜宮紅羽(くれは)。国宝級の美形だと、転校初日である一昨日(おととい)からすでに有名な方ですね」

 ふーんと見下ろしながら、どの人だろうと目で追う。騒がれるくらいだから、それなりに……。

 サラサラしたアイ色の髪がゆっくりと上を向いて、パチリと目が合う。
 整った顔のパーツ、落ち着きのある雰囲気。胸の奥からチリチリと何かが込み上げて、息が苦しくなってくる。


 ──あの人だ。

 周りの声が遠くなって、まるで二人だけしか世界にいないみたいに音がない。

 夜宮先輩のくちびるがスローモーションに動く。

 えっ、今、なんて……?

「さっき私のこと見て何か言ってたよね?」
「えー、あたしだって目合ったよ!」
「ワタシも!」

 急に女子たちの声が聞こえてきて、外からパッと視線を離した。
 みんな思うことは同じ。コンサート会場で、誰がファンサをもらったか言い争ってるのと変わらない。

 でも、これだけはハッキリ分かる。
 天使の輪をつくる髪と、ガラス細工みたいに透き通った目。

 あの人は、遠い昔の記憶に住む初恋の人に似てる。