飛び跳ねていたプイプイがぶつかって、ティーカップが落ちて割れた。テーブルクロスに、紅いシミが広がっていく。

 慌てて拾おうとする手を止められた。危ないからって。

「リリアの体に傷をつけたら、怒られてしまうからね」
「そんなこと……、え、誰に?」

 不思議に思って首をかしげる。その直後、今度は近くのチェストの上でガタンと音がした。
 驚いたプイプイが、暴走して飾りを倒したらしい。

「プイプイ、落ち着いて」

 そっと肩へ抱き上げて、写真立てを起こす。そこには、夜宮先輩と小さな男の子が写っていた。

 もしかして、弟さん──?
 口を開きかけて、言葉をごくんと飲み込む。

 違う。この男の人は、夜宮先輩じゃない。となりに座る小さい子がそうだ。

 だったら、この人は誰だろう。夜宮先輩と瓜ふたつの顔で笑う、美少年は──。

「似てるでしょ。僕と、兄って」
「先輩の、お兄……さん?」

 そっと振り返ると、夜宮先輩はティーカップの破片(はへん)を拾う手を止めた。

夜宮王河(よるみやおうが)。君も、会ったことがあるはずだよ」

 思い出すのは、揺れるレースカーテンとキレイな目。ずっと心の奥にいた、あの人。

 コンコンとノックがして、執事のチグサさんが入ってきた。先輩が集めた破片を片付けて、新しいテーブルクロスに変えてくれた。

 どうしよう。聞きたくてたまらない。
 でも、口にしてはダメな気がする。

「あの……お兄さんは、今、どこに……?」