「……先輩、なんか、怖くなってきました」

 ひんやりした場所。薄暗くて、お化け屋敷を思い出す。

 なりふり構わず、夜宮先輩の腕にしがみついた。泣きそうなくちびるをグッと閉じたら、ほわんと明かるくなった。


「着いたよ」

 ここは部屋なのかな。広い洞窟(どうくつ)みたいな場所で、まわりにろうそくが浮いている。
 川のような水と大きな氷があるだけで、他は何もない。

「……あの、ここは?」

「──永遠(とわ)の入り口。この湖の向こうは、僕たち悪魔の世界と繋がってる」

 虹色に光る氷へ手を当てて、先輩が言う。
 つらいこと、考えごとをするときに、たまに来るらしい。

「リリアには、知っておいてほしくて。ここへ来る方法。あと、紹介もかねてね」
「……なんの?」
「それはまた今度。そろそろ戻ろうか」


 部屋へ戻ってから、夜宮先輩がチョコレートと紅茶を持って来てくれた。バラの花びらを浮かべたローズティーというらしい。

 甘酸っぱくて、いい香り。オシャレすぎて、花びらは食べていいのか聞けなかった。残しては失礼になる気がして、今はすでにお腹の中。

『プーイプイ』

 チョコレートの匂いに誘われたのか、プイプイも出てきて、わたしの頭の上ではしゃいでいる。短い両手で、ハムハムとかじる姿がかわいすぎる!

「久しぶりだな。こうして、誰かと一緒にいるの」

 しみじみとした顔をするから、胸の奥がキュッとなった。
 おだやかに笑っているけど、どこか寂しそうな目をしてる。