「イブリス、ごくろうさま。中へお戻り」

 手のひらが閉じかけたとたん、先輩の手からプイプイがすり抜けて、わたしの肩へと飛び乗る。

「えっ、ええ⁉︎ あの?」
『プイプーイ!』

 くるくると頭の上から背中へ移り、ストンとポケットへ入った。

「どうやら、リリアのことが気に入ったようだね」

 やっぱり、夜宮先輩の妖精だったんだ。
 つぶらな瞳を閉じて、気持ちよさそうに寝ている。

「イブリスには案内役をしてもらったんだけど、しばらく預かってもらえるかな」
「……はい、えっと、案内?」

 首をかしげると、手を引かれ、「こっち」と大きな門の向こう側へと招かれた。
 花の道が続く庭で、マリモ妖精たちが白い花に色をつけて遊んでいる。

 屋敷の中へ入ると、執事の服を着たおじいさんが出てきた。

「お帰りなさいませ、クレハ様」
「ただいま。今日はお客さんを連れて来たから、僕の部屋には入らないで」
「かしこまりました」

 灰色の口ひげを生やしたおじいさんは、漫画で見るような執事そのもの。ほんとうに存在するんだ。

 わけも分からず、軽く頭を下げて、わたしは階段を上がった。