学校へ行く途中、手のひらの上に妖精を浮かべて話しかけてみた。

「あなたの名前は?」
『ぷい、ぷい』

 可愛らしい声で、返事をしてくれた。
 お父さんの言う通り、悪さをするようには見えない。

「プイプイ? とりあえず、プイプイって呼ぶね」
『ぷい、ぷい!』

 喜んでいるのか、手の上で跳ねている。
 か、可愛すぎる!

「他の人には見えないかもしれないけど、念のため。ここに入っててね」

 制服のポケットへ忍ばせると、プイプイはスヤスヤと眠り始めた。

「ちょ、ちょっと待って! どこ行くの?」

 何事もなく学校が終わって、帰っていたところ。急にポケットの中で動き出したと思ったら、ものすごい力で引っ張られていく。

 プイプイのしわざだ。走って走って、止まらない。マラソンは苦手なのに、息が続かないよ。

 やっと足が止まったのは、大きなお屋敷の前。柵できっちり囲まれていて、木や花がたくさん植えられている。

「すごい……お金持ちだ」

 のほほんと見とれていたら、ポケットからプイプイが飛び出した。
 慌てて捕まえようとしたら、ピョーンとカーブを描いて誰かの手の中へ入り込む。学校帰りの夜宮先輩だ。

 もしかして、このお屋敷って……。