駅で降りて、レオはお姉さんが、トーコちゃんはお父さんが迎えに来た。
 二人と別れて、わたしと夜宮先輩は待合室でバスを待つ。

「あの、助けてくれて、ありがとうございました。お礼言いそびれてたので」

 ペコリと頭を下げると、大きな手のひらが優しく髪をなでた。

 ふいうちすぎて、ドキッとする。
 そういえば、わたしのことを大切な人って言っていたのを思い出した。

「彼女……風水(かざみず)さん、だっけ。僕を試していたんでしょ? 悪魔かどうか」
「えっ、どうしてそのこと……!」
「じゃないと、あんな廃墟(はいきょ)まがいの場所につれていかないよ」

 そう小さく笑った。
 先輩の乗るバスが来て、待合室を出る。
 乗り込もうとする背中に近づいて、二人だけが聞こえる声で。

「先輩はいい悪魔だって知れば、トーコちゃんも、あきらめてくれるかも」

 だんだん弱くなっていく語尾に、先輩が振り返った。

「それはどうかな。悪魔はワルイ生き物って、決まってる。僕も例外じゃないかもしれないよ?」

 どうして、自分を落とすようなことを言うんだろう。先輩は、わたしを助けてくれたのに。

 おでこにチュッとくちびるが触れて、緊張で動けなくなる。
 そのとき、首のところに、キラリと光るエメラルドグリーンが見えた。

「その……ペンダントって」
「これは僕にとって、命より大切なものなんだ」

 すぐに隠されて、よく確認できなかった。
 じゃあねと手を振り合って、先輩と別れた。


 ──命より、大切なもの。

 夜宮先輩は、まだ何かを隠している気がする。