「おまえ、悪魔だろう? 不幸を食べなくていいのか?」

 ハッと前を見ると、不気味な声のウサギが立っていた。この着ぐるみは、ベンチにいるとき風船をくれたスタッフさんだ。

 ウサギの着ぐるみが消えて、女の人が現れる。その背中に黒い翼は見当たらない。でも、不思議なけむりを吸い込んで笑っている。

 あきらかに人間じゃない。なのに、どうして翼が見えないの?

「そんなものはいらない」

 少しだけ、夜宮先輩の口調が強くなった。

「強がっちゃって。それでは、終わりが見えている。ああ、そうか。だからその人間を」

(あく)()せる(のぞ)みの月よ、解き放て』

 先輩が呪文のような言葉を(とな)え始めると、エメラルドグリーンの光が現れた。
 まぶしそうにする悪魔は、逃げようと背を向ける。

『イニティウム』

 その瞬間、光も人影も消えた。
 あの時と同じ。お父さんが指輪で悪魔を封印したみたいに、一瞬の出来事だった。

「立てるか?」

 小さくうなずくわたしの体を、そっとお姫さま抱っこして、夜宮先輩は黒い翼を広げる。
 そのまま、薄暗いお化け屋敷の中を一直線に飛んでいく。まるで、コウモリが飛ぶみたいに。