地鳴りみたいな低い声が響いて、わたしはその場に尻もちをついた。今、誰かに押された気がする。
 青ざめながら顔を上げると、目の前に人の気配があった。

 ……夜宮先輩?

「話が違う。おどかすなんて、聞いてない」
「リリア、大丈夫か!」
「あなた、なにをして……」

 すぐそこで話し声がしていたのに、バタバタという足音が遠のいていく。あっという間に、シーンと音がなくなった。

 えっ、待って? みんな、行っちゃったの?

 地面に座り込んだまま、腰が抜けて立てない。

「うそでしょ? トーコちゃん? レオ、先輩……」

 真っ暗なとこから、ぼんやりと何か近付いてくるのがわかった。
 後ずさりすると、今度は足のようなものに触った。前にも後ろにも、誰かいる。

「よこせ……、お前の力、よこせ!」

 赤く光る瞳が現れて、グッと手首を掴まれた。痛い、怖い!

「……たすけて、夜宮せんぱ……」
「さわるな」

 ふわりと体が浮き上がったと思ったら、ランプを灯したように辺りが明るくなった。夜宮先輩に抱きかかえられている。

「リリアは僕の大切な人だ。僕の許可なく()れるな」

 そう言い放つと、飛んでいた足がストンと地へ降りた。わたしを背中へ隠すと、夜宮先輩がシャツの胸元から何かを取り出す。

 その瞬間、パーンと何かが割れる音がした。

 手を離して天井に上がっていた、赤い風船だ。紫のけむりが、まわりに広がっていく。