「夜宮先輩、どうかされましたか?」

 試すような口調で、トーコちゃんが一歩前へ出る。

「いや、普通に不気味だろ。風水の方が異常だぞ」

 腕組みしながら、レオがためらう声を出した。
「そうなんですか?」と、シャーロットを抱きしめながら、トーコちゃんがきょとんとする。

「ごめん、考えごとをしてて。行こうか」

 何事もなかったように、夜宮先輩がエリアへ足を踏み入れた。悪魔なのに、大丈夫なの?
 不安げに見ていたら、にこりと笑顔が返ってきた。なんともなさそうだ。

 トーコちゃんは少し悔しそうにして、先へ進む。

「心配しなくてもいいよ。ここには、それほど力は残っていないからね」

 コソッと耳打ちされて、ドキッとした。いきなりささやくのは、反則だよ。

 噴水を通り過ぎて、花の造形でできたアーチをくぐる。以前はおみくじでも引けたのか、くくりつける場所が残っていた。

 ハートの形をした(かね)の下で、トーコちゃんが手招(てまね)きをする。二人で鐘をならすと、恋が実ると言われているらしい。

「せっかくなので、ならしていきましょうか」

 トーコちゃんの話を最後まで聞く前に、レオがわたしの腕をつかんだ。

「くだらねぇ。リリア、行くぞ」
「ちょ、ちょっと、レオ?」

 いきおいよく引っ張っられて、二人からぐいぐい遠ざかっていく。なんか怒ってる?

 待ってと言っても、聞く耳を持たない。振り返ると、ハートの鐘はあっという間に小さくなっていた。
 エンジェルエリアを出て、やっと手を離してくれた。先輩たちと、完全にはぐれちゃった。