誕生日プレゼントでもらった花柄のポーチはカバンにしのばせて、リップはさっそく塗ってみた。
 ほんのり桜色になって、顔がはなやかに映る。

 気分だけでも上げておかないと、今日を乗り越えられる気がしない。朝からあんなことを知らされたら、足が重くもなるよ。

 わたしは天使で、夜宮先輩が悪魔。まだ信じられなくて、自分の立場を飲み込めないでいる。

 家を出てすぐの坂を下っていると、後ろからお父さんの声がした。途中まで仕事の道と同じだから、時間によっては重なることがある。

「ごめんな、リリア。大変な役目を任せて」

 ううんと首を横にふるけど、何も言えない。
 お父さんたちのせいじゃない。家系なのだから、仕方がないこと。

 でも、もしもわたしが悪魔を見つける仕事をしなかったら、どうなるんだろう。翼が見えないことにしたら、あきらめてくれるのかな。

 坂を降りたところで、叫び声が耳に入った。

 駄菓子屋の前にカラスが群がっていて、その中心に小学生の男の子がいる。帽子を取ろうと口ばしでつついたり、服を引っぱったり。

 どうして、あんなに寄ってたかって攻撃しているの? まだ小さくて、抵抗もできない子に。

「助けてあげないと!」

 わたしより先に、お父さんが走っていた。仕事のカバンでカラスを追い払うと、男の子は泣きながら逃げて行く。

 見たところケガはなさそう。よかった。

 ホッとしていると、駄菓子屋の中で誰かが立っているのが見えた。この店のおばあさんだ。