「リリアのことは、よく知ってるよ。ずっとずっと前からね」

 優しく笑いかけられて、頬がとろけそうになる。やっぱり、あの人と似てる。
 もう七年も前のこと。だから、別人に決まってるのにドキドキしちゃう。


「……あっ、あの、わたし」

 どうしよう。緊張して、まともに目を見て話せない。
 しどろもどろになって、一歩うしろへ下がった。トーコちゃんの制服を掴んだままの手が、ぴーんと伸びる。

 あれ、なんか変だ。トーコちゃんがびくとも動かない。と言うより、カチカチに凍っているみたいで……。

 ゆっくり顔を上げて、ハッとする。まわりを見てみると、誰ひとり動いていない。

 写真の中に入ってしまったように、みんなまばたきすらしていない。どうなってるの⁉︎

「あの約束、覚えてくれてるかな?」

 わたしと夜宮先輩だけが普通に話せている。驚いてないけど、もしかして先輩が何かしたの?

 それに。

「約束って」

 なんのことか分からなくて、わたしは口を閉じた。
 今日、初めて会ったのに、約束なんてしているはずがない。あるとしたら──。

 おもむろに手をつかまれて、先輩の顔が近づく。動けないでいると、手のコウにふわんと唇が触れた。
 ドキドキの音が外に聞こえてしまいそう。

「思い出してくれた?」

 クスッと笑う夜宮先輩は、おとぎ話の王子様そのもの。なんて浮かれている場合じゃない。
 もしかしたら、本当にあのときの人なのかもしれない。