夏の真夜中。
 レースのカーテンが風に吹かれて、ゆらゆらと揺れている。

 少女が眠る部屋のベランダに、少年の影が現れた。十五歳くらいの男の子。


 パジャマの胸元に光るペンダントをそっと外すと、影は軽やかに窓へ飛び乗る。


「お兄ちゃん、誰……?」


 目を覚ました少女が、月に照らされる姿に首をかしげていた。


 彼は、シーッとくちびるの前で人差し指を立てて。


「泥棒だよ。君の大切な物をもらいに来たんだ」


 優しく笑みを浮かべると、(ちょう)の羽根のようなマントをゆらりとさせて、静かに床へ降りた。

 そして、自分が付けていた赤いネックレスを少女の手のひらに落とす。


「代わりにこれをあげる。もっと大きくなったら、今度は君をさらいに来るね。小さなお姫さま」


 白い歯を見せて、手に軽くキスをした。
 ほんのりと赤らむ少女の頬。

 ステップを踏むようにタンッと窓へ移ると、彼は闇へと消えた。

 すぐに外をのぞいたけれど誰もいない。



 これが、わたしの初恋。