あの騒動から一ヶ月が経った。

 アリアのためとはいえ、魔法を発動させ、王城の一室を破壊させたフレディは、始末書に追われていた。

 しかも研究ばかりでその腕を振るわなかったフレディに、ここぞとばかりに外での仕事が舞い込んだ。

『くそっ、あの王太子の仕業だ』

 フレディは顔をしかめて文句を言っていた。

 どんなに忙しくても、遅くなっても、必ずフレディはアリアの元へと帰って来た。アリアはそれだけで幸せだった。

 日中、王家主催の舞踏会に向けて、アリアはレイラとダンスのレッスンをしていた。フレディにお昼を届ける仕事も、メイドの仕事も、もう終わり。本格的に公爵夫人としてレイラから学ぶことになった。

 爵位にこだわらないフレディは「そのままで良い」と言ってくれたが、そういうわけにはいかないと、アリアがレイラにお願いしたのだ。

 そうして忙しいフレディとの時間は夜だけになったが、フレディと過ごせる毎日に、アリアは幸せで、勉強も頑張れた。


「うん、アリーちゃん綺麗よ」

 舞踏会当日。自身も着飾ったレイラは、アリアの準備を手伝ってくれた。

「ふふ、アリーちゃんってば、吸収が早いから、良い生徒だったわよ」

 鏡越しに柔らかく笑うレイラに、アリアも笑みを返す。

「これからもご指導、よろしくお願いいたします」
「フレディってば素適なお嫁さんを迎えられて、幸せね。私もアリーちゃんが本当の妹になって嬉しい!」

 後ろからぎゅう、とレイラに抱きしめられ、アリアは頬を染めて笑った。

(私もレイラ様がお義姉様で嬉しい……)

「もう、これは必要無いわね?」

 レイラが茶目っ気たっぷりで掲げてみせたのはフレディの魔法薬。

 今日は悪役令嬢のメイクも、ドレスも無い。

 フレディの瞳であるラピスラズリ色のドレスで、メイクもふんわりと素敵にレイラが仕上げてくれた。

 ラベンダー色の髪はゆったりと編み込まれ、レースで出来た花の髪飾りがあしらわれている。

「はい。悪役令嬢は卒業です……!」

 しっかりと前を見据えて告げたアリアに、レイラは嬉しそうに微笑んだ。