「国王陛下は今回のことを私に一任された」
「はっ……?」

 口の端を上げていたローズの表情が固まる。

「お前は、隣国の王太子に嫁ぐことが予定されていた。そんなお前を甘やかし、ここまで見逃してきたのは父上の責任でもある。こんな問題ばかり起こして……父上には一線から少し離れてもらうことにした」
「なっ……」

 兄の言葉に、ローズは父が事実上、国王陛下の権限を兄のルードに委ねたことを理解する。

「ローズ、お前の嫁入りの話は無くなった。男遊びだけでなく、こんな犯罪じみたことまでしでかして……とてもじゃないが、隣国にそんな人間を国の使者として送り出せない」
「結婚なんて聞いてませんわよ……私はフレディ様と……」

 隣国との結婚話が消えたことに、それがどうしたと鼻で笑うローズに、ルードが畳み掛ける。

「お前とは縁を切る。王女である地位を剥奪し、辺境の修道院に送ることになった」
「なん……ですって?」

 容赦ないルードの決定に、ローズは美しいサファイアの瞳を溢れんばかりに見開いた。

「私が! フレディ様と結婚すれば、全て丸く収まるのよ?! こんな、貧乏で役立たずな落ちぶれた伯爵家の女と、王女の私、どちらを優先すべきかなんて、わかりきっていますわよね?!」

 アリアを指差し、食ってかかって来たローズに対して、ルードは大きな溜息を吐いた。

「……愚かな。お前の罪を被り、ましてや王家に迫る危機を救ってくれたアリア嬢とお前なんて、比べるまでもない」
「お兄様……?」

 冷ややかな兄の表情に、ローズは目を白黒とさせ、なおも縋ろうとした。

「お前は優秀なアリア嬢をくだらないパーティーの招待状管理として使っていたみたいだがな」 
「嘘でしょ? ねえ……お兄様……」

 もうローズの方を見ようともしないルードに、彼女は縋る。

「もう兄とは呼ぶな! お前とは縁を切った! 連れて行け!」
「うそよ、お兄様――――」

 近衛隊たちに指示をし、ルードはローズに背を向けた。悲痛なローズの叫びは、近衛隊たちに連れて行かれた彼女の身体と共に、遠ざかって行った。