「アリア嬢、君に悪役令嬢役を引き受けて欲しい」
「えっ!? えっ……??」

 ライアン・シュミット公爵。28歳と若くして宰相を務める彼は、王家血筋の金色の髪に夜空を溶かしたような濃い青い瞳で、顔が良い。奥様とは仲睦まじく、皆が羨むほどの噂の夫婦である。

「君は王女に男遊びの汚名を着せられた。申し訳ないと思う。だが、そのまま悪役令嬢としての役を負ってくれないだろうか?」

 彼の執務室に通されたアリアはポカン、とライアンを見つめた。

「あ、あの……王女殿下の汚名を着るのは良いのですが、私なんてとてもそんなことをしでかす器では無く……」

 気の弱いアリアはボソボソとライアンに話す。

「君は寛大だね……自分で言っといて何だが、王女の汚名は酷いものだよ? 君は結婚も出来なくなるかもしれない」

 アリアの言葉に目を大きく瞠り、ライアンが言った。

「あの……私は結婚なんて望んでおりません……。こんなですし、クラヴェル伯爵家は父の代で終わりでしょうし、私は働いて生計を立てて行きたかったのですが……こうなった以上、修道院にでも……ああ、でもこんな汚名では修道院も受け入れてくれないでしょうか……」

 目を伏せてまくし立てるように話すアリアに、ライアンはふむ、と顎に手をやる。

「ではアリア嬢、こうしようじゃないか。この任務を完遂した後には、君を我がシュミット公爵領の領民として迎えると。生活には困らないように家も用意するし、どうだい?」
「シュミット……公爵領……」

 ライアンの提案にアリアは震えた。

(シュミット公爵領といえば、自然が豊かで良い土地だと聞きます……! そこでのんびり暮らせたら……!)

「はは、返事はオーケーみたいだね?」

 瞳を輝かせたアリアを見てライアンが目を細めた。

「あの、でも、私は何をすれば良いんでしょう……?」

 不安そうに見上げるアリアに、ライアンは告げる。

「ああ。王女に近付いた子息の中できな臭い奴が何人かいてね。君にはそいつらに本当に近づいてもらって、探ってもらいたいんだ」
「……無理です」
「だろうね」

 アリアの即答に、ライアンは眉尻を下げて笑った。

「君の王女付メイドとしての仕事は見てきた。これでも人を見る目はあるんだ私は」
「はあ……」

 それでも自信ありげに語るライアンに、アリアは不安そうに返事をする。

「君に魔法をかけてあげるよ」
「ま……ほう?」

 その言葉にアリアの瞳が輝いた。