金色のふわりとした髪をかき上げ、サファイアのように美しい瞳でアリアを見つめるその女性こそ、この国の第一王女、ローズ・デルリアだった。

「やっぱりあの時、殺しておくんだったわ」

 美しいその顔を歪ませてローズはベッドから立ち上がった。

「何を……?!」

 アリアはナイフを突き付けられていた男から後ろ手にロープで縛られた。

「あの時、あんたは記憶を失い、私は庭掃除の任を解いた。それでフレディ様との接点は無くなったと思っていたのにっ……」

 爪を噛み締めながらコツコツとヒールの足音を鳴らし、ローズがアリアに近寄る。

「ねえ、フレディ様と中庭でキスしていたというのは、本当?」
「?!」

 歪んだ笑顔を傾かせ、ローズがアリアを覗き込む。アリアは恐怖に怯えながらも、顔をカッと赤くさせた。

「……そう。私はフレディ様に拒否され続けて来たのに……あんたは私のフレディ様に……」

 ローズはアリアのドレスの首元を掴むと、顔を近づけて言った。

「フレディ様は潔癖で女嫌いなのよ。私は、王女だから彼が遠慮していただけ。フレディ様に相応しい相手は私だけなのよ!」

 ローズの綺麗なサファイアの瞳の奥は怒りで揺れている。

「フレディ様と別れなさい。あんたが彼の弱みを握って縛っているんでしょう?」
「痛っ……」

 ローズの長い爪がアリアの頬に食い込むと、アリアは思わず声をあげた。

「別れるって言いなさいよ!」

(ローズ王女殿下はこんなにもフレディ様のことを思って……でも……)

 詰め寄るローズにアリアは意を決して顔を上げた。

「……嫌です。いくら王女殿下の命令とはいえ、今はもう私はメイドじゃありません」
「メイドじゃなくても王族の言う事を聞くのが、国民の務めでしょ?!」

 アリアの言葉にローズはカッとなり叫ぶ。

「……いくら王族でも、結婚に関してはその家に口出しは出来ないはずです。私は、フレディ様から言われない限りは、離婚する気はありません」

 アリアは自分でも信じられないくらい、しっかりとした口調でローズに告げた。

 フレディから離婚する気は無い、と告げられた。そして好きだ、という想いを伝えてくれた。フレディの想いが、アリアに力を与えてくれていた。

(今は悪役令嬢じゃない。でも……)

 ぎゅう、とフレディがくれたお守りのペンダントを握りしめ、アリアは毅然としてローズを見つめた。

「……そう。フレディ様が決断されれば良いのね」

 ローズはサファイアの瞳を虚ろに曇らせながら、アリアの首元から手を離し、ゆらりと立ち上がった。

「マディオ」
「はい」

 アリアをここまで連れてきた男は少し下がった所に立っており、ローズが呼びかけると嬉しそうに返事をした。

「この女をあんたの妻にしなさい」
「?!」