アリアはクラヴェル伯爵家の一人娘だった。クラヴェル伯爵家はとにかく貧乏で、アリアは14歳になった年から、王城で働き始めた。

 貧乏とはいえ伯爵家の令嬢として、他の貴族令嬢たちに混じって王女付きのメイドになった。

 二つ年下の王女、ローズは、国王夫妻から溺愛されていた。兄のルード・デルリア王太子とは違い、いつか他国へと嫁ぐことになるだろうローズはかなり甘やかされ、我儘な王女だった。

 何人もメイドが辞めて行く中、王女に取り入ろうと気概のある貴族の令嬢たちだけは残っていた。

 アリアは取り入る気はなかったが、働き口があるだけありがたかったので、辞めることはなかった。

 最初は可愛かった王女の我儘も、彼女がデビュタントを迎えると、一変した。

 美しい容姿を持つ王女は貴族の子息たちから注目を浴びていた。自分が美しいと知っていたローズは、ご令嬢ではなく、自分の気に入った貴族子息を何人も呼び、お茶会を幾度と開いた。

「アリア、招待状を手配しておいて」
「かしこまりました……」
「あいつは飽きたから、今度はヘブバン男爵家の子息を呼んで」
「かしこまりました」

 ローズの言う通りに招待状を手配するのはアリアの仕事だった。

 ローズからのお誘いなので、喜々として来る者、王家と繋がりたい野心のある者、断れず仕方なく来る者、色んな子息が入れ替わり立ち代わりお茶会に来た。

 国王夫妻も、「お茶会くらい可愛いもの」として見過ごしていた。

 ローズには想い人がいた。

 その想い人は王女である彼女になびくことは無く、そつなく応対するだけだった。彼を振り向かせようと躍起になっていた彼女は、お茶会だけでは済まなくなった。

 夜にパーティーを開き、自室に男を招くようになったのである。

 王女がそんなことをしていると周囲にバレては、王家の醜聞に関わる。

 流石に国王夫妻に呼び出されたローズが言い放った言葉はこうだ。

「今までのお茶会は全てアリアが開催していたもの。男たちを取っ替え引っ掛え遊んでいたのはアリアです」

 ローズに言われるままお茶会やパーティーの手配をしていたアリアは、あっさりと王女にその汚名を擦り付けられた。

(それは無理があるのでは……)

 あまりにも乱暴な物言いに、アリアは開いた口が塞がらなかったが、困った国王夫妻は、ローズの言い分通り受け止めることにした。

 そしてメイドをクビになり、途方にくれていたアリアに声をかけたのは宰相のライアン・シュミットだった。