男はナイフでドレスを少しだけ切り裂く。それはただの脅しでは無いことを示していた。

「一体どこに……」
「いいから黙って来い」

 アリアに有無を言わせず、男はナイフを突き付けながらアリアの手を自身の腕に絡ませた。

 傍から見れば、仲の良い男女が歩いているだけだ。

「男遊びの激しい悪女のことなど誰も気に留めないだろう」

 男は開けた庭からそびえ立つ魔法省の塔を見上げた。塔の至る窓からは何人かが顔を覗かせて二人を見ていた。

「おっと、妙な真似するなよ。お前は俺と浮気している所だ。さあ、歩け」

 魔法省の人たちに助けを求めようとしたアリアは、見えない場所でナイフを突き付けられ、口を噤むしかなかった。

 アリアはベンチの上のバスケットに目線をやる。アリアの視線に気付いた男は、腰を引き寄せ、身体を密着させた。

「ローレン公爵も何でこんな悪女なんかに骨抜きなんだろうなあ。まあ、これから失望するんだろうがな」

 会話の内容が聞こえない以上、傍から見ればイチャついているように見えるだろう。魔法省の人たちに見せつけるように男は身体を密着させている。

(フレディ様はそんなこと、今更信じないわ……!)

 そう言いたいのに、目の前の男に刺される恐怖から、アリアは口をハクハクとさせた。

「さあ、我が愛しの人のためにお前には退場してもらうよ?」

 不気味に笑う男に恐怖を感じながらも、アリアは為す術もなく、言われるまま、男と庭を後にした。