今までを振り返り、表情をコロコロ変えているアリアにライアンは優しく語りかける。レイラも彼の隣に座り、じっとアリアの言葉を待っていた。

「あの……ライアン様が私の後ろ盾をしてくださると……」

 昨日フレディから聞いた話を切り出す。

「ああ。フレディから聞いたのか? アリーがフレディと王都でこれからも生きて行くつもりなら、俺はそうするつもりだ」

 ライアンからきっぱりとした返事が返ってくる。

 アリアは恐れ多い、という気持ちと、ありがたい、という気持ちがないまぜになりながらもジーンとする。

「フレディったら、やっとちゃんと気持ちを伝えたのね?」

 アリアがその話を聞いたということからピンときたレイラは経緯を言い当てる。

 アリアは顔を赤くして俯いた。

「それで、アリーはどうしたい?」

 優しくアリアの気持ちを聞いてくれるライアンに、アリアはぐっと顔を上げて言った。

「私は、きっと……フレディ様に惹かれていると思います」

 アリアの言葉にレイラが「まあっ」と嬉しそうに声を上げた。それをライアンが優しく制し、アリアの言葉の続きを待つ。

「でも……私の中ですっぽり抜けてしまった記憶があると思うんです。ライアン様はご存知なんですよね? 私は、それを取り戻さないとフレディ様に私のままで(・・・・・)ちゃんと向き合えない気がするんです……」
「それが辛いことでも?」

 真っ直ぐに見つめるライアンに、アリアもしっかりと視線を合わせて頷いた。

「アリーちゃん、別に今のまま幸せになる権利だってあるのよ?」

 レイラが心配そうにアリアに言った。そのことから、やはり余程のことなのだろうとアリアは息を飲んだ。

「きっと……フレディ様だけじゃなくて、私にとっても大切な記憶だったと思うんです。それがたとえ辛いことに繋がっていても、私は取り戻したい」

 アリアは二人を見てしっかりと言った。

「アリーちゃん、強くなったわね」
「え……」

 レイラが微笑みながらアリーに言うので、アリアは目を見開いた。

「ううん、元から強かったのよ。でも、前には出て来なかった」

 目を閉じて思い返すように話すレイラは、改めてアリアを見ると、溢れそうなくらいの笑顔で言った。

「アリーちゃんが悪役令嬢として頑張ってきたこともちゃんと貴方の自信になっているし、フレディのことがきっかけでアリーちゃんが強さを前に出せるようになったのだとしたら、すごく嬉しい」

 そんなレイラの肩を抱き寄せ、ライアンも微笑む。

「そうだな。仕事として引き合わせたのは俺だが、それは運命の再会だった。二人にとって幸せに繋がることなら、俺はどんなことでも協力する」

 頼もしい言葉にアリアは涙が込み上げてくる。

「ありがとうございます……」

 アリアはお礼を言って二人に深く頭を下げた。

(私はこんなにも恵まれている。弱虫で臆病なアリアのままじゃダメだ。悪役令嬢の時みたいに、顔をしっかりとあげないと……)

「私に、何があったのか教えてください」

 ぐっと顔を上げて、アリアはライアンを見つめた。

「……わかった」

 ライアンは一呼吸置いて、返事をした。