次の日、アリアは魔法省にお昼を届ける前に、ライアンの執務室を訪れることにした。

 レイラはライアンを補佐する形でかなりの確率で一緒に執務室にいる。仲睦まじいお似合いの夫婦だと噂される所以もそこにある。

 アリアの悪役令嬢への変身が行われるのもそういった理由からライアンの執務室だった。

 会議や出張が無い限りはいつでもアリアは執務室を訪れて良いことになっている。

 コンコン、と扉をノックすると、笑顔のレイラが出迎えてくれた。

「あ、アリーちゃん、いらっしゃい。ふふ、久しぶりね? あ、昨日のパーティーはどうだった? 今日はどうしたの?」

 顔を見るなりレイラから矢継ぎ早に質問が飛んでくる。

「レイラ、とりあえず中に」

 どれから答えようかと思い悩んでいると、後ろからライアンがレイラの肩に手を置き、苦笑して声をかけた。

「あらやだ私ったら。アリーちゃんが来てくれたのが嬉しくって。さあ、中に入って」

 可愛らしく微笑むレイラに、アリアはほっこりとする。自分が来ただけで喜んでくれるレイラに嬉しくなる。

 役立たずだ、悪女だ、と罵られる日常の中で、可愛がってくれるレイラの存在は悪役令嬢として振る舞うアリアの力になっていた。

 そんな大好きなレイラと恩人であるライアンにアリアは改めて報告に来ようと思ったのだ。

「それで? 悪役令嬢の扮装はいらない、ってなったのよねえ?」

 応接セットのソファーに腰掛けたアリアの目の前に紅茶を用意してくれ、レイラがゆったりと話す。

「は、はい。フレディ様から、そのままで妻役をやって欲しいと仰せつかっています」
「そうか」

 アリアの言葉に向かいに座るライアンは優しく目を細めた。

 その表情が嬉しそうで。アリアは唐突に理解する。

(フレディ様の気持ちにライアン様も気付いて……えっ……いつから……)

 仕事、仕事と邁進してきた自分はちっともフレディの気持ちに気付かなかった。甘い言葉を吐くのも、キスするのも演技だと思っていた。

 今思えば、潔癖だけど優しくて真面目なフレディがそんなことをするはずはないとわかるはずなのに。

 自分に触れられるのは魔法薬のおかげだとさえ思っていた。フレディの思い出を全否定だ。

 今までの自分の対応に恥ずかしくなり、顔が赤くなる。

「今日はどうしたんだアリア?」