ざあっと風が吹き、庭園の薔薇を揺らす。その甘い香りにアリアはくらりと酔いそうになる。

「初めて出会った時から、俺が触れられる女の子は君だけなんだアリア。俺は、君を愛している。本当の妻としてずっと側にいて欲しい」

 真剣なフレディの告白に、流石に演技ではないとアリアも理解する。

「私……私は――」

 突然のフレディの告白に頭が動かない。

 嬉しいはずなのに、色んな思いが邪魔をして、感情が追いつかない。

 そもそも、フレディが大切にしている思い出の女の子は本当に自分なのか。別人なのではないだろうか。

 頭に靄がかかったようで、そんな不安が湧き起こる。

「……返事はすぐじゃなくて良い。社交シーズン中の契約はまだ続いているしね。今はまだ仕事でも良いんだ。だけど、俺との将来を真剣に考えて欲しい。その上でシュミット領に行きたいと言うなら、俺はアリアの意志を尊重する」

 頭の中がぐちゃぐちゃなアリアは、ただただフレディの真剣な瞳から視線を逸らせず、涙が頬を伝うのを感じていた。

 アリアの涙を指で拭い、フレディはアリアの頬にキスを落とした。

「もう、仕事でキスもしない。アリアが俺を選んでくれたら、思う存分するからね」
「ひゃうっ?!」

 フレディの甘い言葉に、アリアからいつも通りの反応が返る。その様子を見たフレディは少しだけ安堵の表情を見せた。

(私、私は――昔のことを思い出さないと前に進めない気がする)

 甘い薔薇の香りを吐き出し、アリアは自分が蓋をしている物に向き合おうと、覚悟を決めた。

 全てはこの庭から始まったのだ。

 甘くて大切な思い出の場所になりつつあるこの小さな庭は、昔、自分の持ち場だったとフレディは言う。

 思い出そうとすると、頭が痛くなり、不安に襲われ、怖い。

(でも――)

 フレディへのこの気持ちが何なのか。その答えの前にある過去への不安にアリアは立ち向かうことにした。