「あの……?」

 俯き考え込んでいたフレディをアリアがベッドの上から見上げた。
 
「――――っ!!」

 そのアップルグリーンの瞳にフレディは吸い込まれそうになる。

「フレディ、様?」
「!!!!」

 思い出の女の子がアリアだと、自身の胸が告げている。

 忘れたことなど一度も無い。触れたかった女の子――その子が目の前にいて、自分の名前を呼んでいる。

 この状況にフレディは増々頭をフリーズさせた。

「あの……?」

(か、かわ……)

 上目遣いで自分を見るアリアに思わず顔を赤くさせたフレディは、ガバリと顔を上げて自身を落ち着かせる。

「と、とりあえず、さっきみたいに、悪役令嬢でいてくれないか?!」

 顔を逸らし、アリアにそう言うと、一瞬の間ののち、アリアが呟いた。

「無理です……」
「は?」
「だから、髪の色を変えるあの魔法薬が無いと、悪役令嬢になれません……」
「え……」

 見つめ合う二人、のち、

「も、申し訳ございませええん!! 役立たずで申し訳ございませええん!! まさかご一緒の部屋で寝るとは思わず!! 明日には魔法薬が届く手はずでしたので……!!」

 アリアは再びベッドの上で土下座した。

(一体、どういうことなんだ?)

 混乱する頭でアリアを見るフレディ。

「わ、わかったから、とりあえず頭を上げてくれ……」

 ベッドに額を擦り付けるアリアにフレディは思わず手を触れた。就寝前のため手袋はしていなかった。

(やっぱり……)

 アリアには触れられた。そのことから思い出の女の子だと確証を得る。

 フレディに促され頭を上げたアリアの目には涙が溜まっていた。

 じっと見つめるアップルグリーンの瞳に、フレディは「うっ」となる。

「と、とりあえず、明日義兄上に話を聞いてくるから、今日は休もう」
「はい……」

 涙を拭って返事をしたアリアにホッとしつつも、フレディは眠れるか不安を覚えるのだった。