「あ、あの……」
「うん、充分虫除けしてくれてるよ? ありがとね、アリア」
「なら良かったです……」

 至近距離で満足そうに微笑むフレディに、アリアはドキドキしながらも答えた。悪役令嬢な私じゃなくてごめんなさい!などと思っていたので、一先ずホッとする。

「悪女かどうかはともかく、溺愛されている噂は本当だったようね」

 身体を寄せ合って挨拶の順番待ちをする二人にそんな声も届いてきた。フレディを密かに狙っていた令嬢たちも、諦める者、悔しさで顔を歪める者、様々だ。
 
 中には先日、フレディの局長室に押しかけて来たご令嬢もいて、ギリリとハンカチを握りしめてアリアを睨んでいた。

「アリア、大丈夫?」

 そんな令嬢の視線に気付いたフレディは、彼女に冷たい目を向け、アリアの身体を更に寄せる。

 フレディの行動に、令嬢はわっと涙を浮かべ、その場を離れた。

「……大丈夫です。悪意を向けられるのは悪役令嬢の仕事ですので」

 フレディがその令嬢が去るのを確認していると、腕の中のアリアは平然と答えた。

「今は悪役令嬢じゃないし、そんな悪意を受け取るのが当然だと思わなくても良い……」

 フレディの言葉にアリアは目をパチクリとさせた。

「……まったく……義兄上はやり過ぎだ……」

 アリアが悪役令嬢でしか自分に価値を見出だせないことは義兄と姉から聞いた。聞いたが、アリアは理不尽を受け入れ過ぎだ。

「まあ、俺が甘やかす、って宣言したし」
「フレディ様……?」

 自問自答するフレディにアリアは首を傾げると、右手を取られる。そして流れるように右手の甲にフレディの唇が落とされた。

 まだ注目を集めていた二人の行動を見た周りからは、キャー、と悲鳴と歓声が混じった声が轟いた。

「あ、あの……」

 顔を真っ赤にして目を点にするアリアに、フレディは不敵に笑う。

「公の場で、どんどん触れてアピールしていくって言ったもんね?」
「は、はははいっ!!」

 フレディの圧に思わず返事をしてしまう。

(お、お仕事だもんね!)

 自分に言い聞かせるようにアリアは頷いた。

「はあ……私のお茶会でそんな楽しそうな顔のフレディ
を見るなんて初めてじゃないか?」

 呆れた声の主を振り返ると、椅子に座る王太子が二人を見ていた。いつの間にか挨拶の順番が来ていたようだ。