そして二人の想いはすれ違ったまま、今日のお茶会を迎えた。

 ドレスはフレディが張り切って用意してくれた。そして自信がないアリアにお守りのネックレスまで。

 あまりにも豪華なドレスに、メイド仕事ばかりしてきたアリアは目眩がした。

 悪役令嬢の時の派手なドレスとも違う。上品で綺麗なドレス。フレディの瞳の色に、王家特有の金色の髪に合わせた刺繍。そしてラピスラズリのネックレス。一目で誰の妻なのかわかる。

「アリア、綺麗だよ」

 さっきも聞いたのに、フレディは馬車の中で何度もアリアに囁いた。

(ひえっ!! もう演技が始まっている!!)

 二人きりの馬車の中で甘い言葉を放つフレディに、アリアはドキドキしっぱなしだった。

「フ、フレディ様もその……素敵です」

 フレディの演技に頑張って応えようと返せば、フレディは手で顔を覆って横を向いてしまった。

(ダメだったかしら……)

 しゅん、と見つめていたフレディの顔がアリアに向き直ると、彼は目を細めて笑った。

「それ、本当?」
「ほ、ほほほ、本当です!!」

 不意の笑顔にアリアの心拍数が上がる。

「俺、素敵?」
「す、すすす素敵です! カッコイイです!」
「嬉しい……」

 正面にいたはずのフレディがいつの間にか隣に腰を落としていた。

(ひえっ!!)

 色気ムンムンのフレディの顔が近くにあり、アリアは思わず後ずさる。

「俺も演技じゃないんだけどなあ……」

 狭い馬車の中、後ずさった所で行き止まり。

 アリアはフレディの伸びてきた腕で行き場を失う。

「本当に綺麗だよ、アリア」
「あ、あのっ?」

 馬車とフレディに挟まれ、タジタジのアリア。

「だから連れて来たくなかったんだ。常に俺の側にいるんだよ?」
「は、はい……?」

 フレディの言っている意味がわからず、思わず疑問形になる。

「俺だけを見ているように」

 そう言うと、フレディはアリアの唇をついばむようにキスをした。

「?!」

 仕事、だとわかっていても急なキスは心臓に悪い。

「お化粧、崩すといけないからね」

 ふっ、と笑いながら自身の唇についたアリアの口紅を指で拭うフレディに、アリアは顔が真っ赤になった。

(私、本当にこのままでお茶会、乗り切れるのかしら?!)

 静まらない心臓を押さえるアリアをよそに、フレディは会場に着くまでずっとアリアの肩を抱いて離さなかった。