「フレディ様!」

 ペタン、とその場に座り込んだフレディをアリアが慌てて支える。

「局長、お水です!」
「ありがとう……」

 スティングが持ってきた水を受け取り、フレディはそれを飲み干した。

「アリア……その格好は……」

 落ち着きを取り戻したフレディは、改めてアリアのドレス姿について聞いた。

「あの……愛人の噂がある以上、悪役令嬢で昼食をお届けに来た方が良いと思ってレイラ様を訪ねたんですが……この方が虫除けになると言われて……」
「姉上が……」

 レイラが用意してくれたドレスだと知り、フレディは赤くなる。

 この国の貴族は、愛する人に自分の色を身に着けさせる。アリアが着ているのは、フレディの瞳の色のドレス。

「あの、やっぱり変でしょうか……」

 そういうことに無頓着なアリアは、顔を覆っているフレディに、しゅんとした顔を見せた。

「変なわけないだろ!」
「ひゃっ……」

 フレディの横で屈んでいたアリアの肩を抱き寄せ、フレディはアリアを抱きしめた。

「……可愛い。可愛くて、誰にも見せたくないくらい……」
「ひゃっ……」

 抱きしめたまま、フレディがアリアの耳元で囁くので、アリアはぴゃっとその場で飛び上がる。

「おーい……局長?」
「ひゃっ!」

 抱き合う二人の横にスティングが呆れた顔で立っていた。アリアはスティングの存在にまたぴゃっと飛び上がる。

「何だスティング、俺とアリアの時間を邪魔するな」

 フレディが気にせず飄々と言うので、アリアは赤い顔で頭をぐるぐるとさせる。

「あ、やっぱり奥さんのアリア様でしたか」
「へっ」

 スティングの言葉でアリアがきょとん、とする。

「何だ、気付いていたんじゃなかったのか?」
「普通気付きませんって!」

 驚くフレディにスティングは呆れた顔で言った。

「ていうか、元から奥さんにべた惚れなんじゃないですか。事情は知りませんが、愛人疑惑は消した方が良いんじゃないですか?」
「あんな騒ぎになるなんてな……」

 スティングの言葉にフレディはそうだな、と逡巡する。

「あの……?」

 状況を理解出来ないアリアにスティングはニカッと笑って言った。

「局長を守ろうとするアリアさん、この前と変わらずカッコよかったですよ! 流石局長が惚れた人です」
「おい」

 スティングの言葉に眉を寄せて制止するフレディだったが、アリアは心に光が差したような想いでぼーっとしていた。

「かっこいい……? 私が?」

 呟くアリアにフレディが頭を撫でると、続けて言った。

「俺を助けようとしてくれた所、昔と変わらないね。かっこいいよ」 
「えん、ぎ……」
「ん?」
「いえ……何でもありません……」
「そう?」

 口を噤んだアリアをフレディが優しく抱き締めた。

 これは演技だ、そう言おうとしてアリアはやめた。

 覚えてはいないが、昔も自分がフレディを助けたらしい。そしてフレディは心からそう言ってくれている気がした。

 これが演技だったら寂しい、とアリアは心に思いながらそっとフレディを抱き締め返した。