「フレディ様! 私と昼食はいかがですか?」
「フレディ様、私、有名なシェフにお弁当を作らせましたの!」

 翌日の昼前、魔法省の局長室に大勢の令嬢たちが押しかけて来た。

「どういうことだ!!」

 入口で甲高い声を上げている令嬢たちをドアを閉めながら対応しているスティングにフレディは叫んだ。

「どうもこうも、皆、局長が女嫌いじゃなかったと思ってアピールしに来たんですよ」
「は? 何でそうなるんだ」

 ドアを押さえるスティングにフレディが呆れた顔で返すと、彼から同じ表情が返って来る。

「だーかーらー! 局長が愛人を囲っているって噂を聞いて、皆騒いでいるんですよ! しかも、相手はメイドですよ?! そりゃ、自分にもチャンスがあると思うでしょ」
「おい、その噂だが、スティング、お前じゃないよな?」
「ち、ちち違いますよ!! あ、そういえば昨日、同僚が局長の浮気現場を見ました!」
「は?」

 ドアを押さえることに必死なスティングは、とんでもないことをサラッと言った。

「というか、お前も見てたの……か?」

 ブルブルと震えながら静かに怒るフレディに、スティングが「ひっ!」となる。

 その弾みでドアを押さえていた手の力が緩まる。

「フレディ様~!!」

 瞬間、令嬢たちが局長室になだれ込み、フレディを囲んだ。

「フレディ様、私とお昼をご一緒しませんか?」
「メイドなんかより、私の方が満足していただけると思いますわ」
「フレディ様、私は由緒ある伯爵家の娘で……」

 次々に口を開く令嬢たちに囲まれ、フレディの顔が青くなる。

「フレディ様……」

 そっとフレディに触れようとした令嬢が目に入り、フレディは爆発的に叫んだ。

「触るな!!!!」

 触れようとした令嬢の手は止まり、その場にいた令嬢たちはシン、と静まり返る。

「俺に、触るな……」

 青くなりながらも鋭い眼差しで令嬢たちを睨むフレディに、彼女たちも一歩引いて、怯む。

「きょ、局長……」

 ドアに挟まれていたスティングが助けに入ろうとした時、ラベンダー色の髪を揺らし、局長室に駆け込むと彼より早くフレディに走り寄るアリアの姿が目に入った。

「フレディ様!!」
「ア……リア?」