「まず、アリアの家が没落寸前なのは知っているな?」
「クラヴェル伯爵家ですよね? 確かに最初の契約の時、アリアはお金が必要だと……」

 アリアが悪役令嬢でフレディの元に来てから一週間も経たない。それなのに遠い昔のことのようにフレディは感じた。

「アリーが悪役令嬢役をやることになった経緯も話したな?」
「あの王女のせいですよね……」

 フレディは忌々しい王女を思い浮かべ、歯を噛み締め、鳴らした。

「まあ、そう言うな。きっかけが何であれ、俺はアリーのおかげで不届者を一斉摘発出来たし、お前も彼女に再会出来たろ?」

 ライアンの言葉にフレディは複雑な顔をする。

 その通りだが、アリアとは悪役令嬢ではなく、普通に再会したかった。

「王女のメイドをクビになった時にアリアは家を勘当されたんだ。王女の問題が明るみにならず、一人のメイドのことなんて騒ぎにすらならなかったが、アリアの父は彼女を恥知らずだと言ったそうだよ」

 ライアンの説明にフレディの中で怒りがフツフツと湧き上がる。

「彼女は悪役令嬢じゃない自分には価値が無いと……」

 怒りを押さえ、膝の上で拳を握りしめたフレディはライアンに問う。

「ああ……。元々、メイドの頃から王女の我儘だけでなく、嫌がらせをされていたようだ。家からも王女からも役立たずと言われ続ければ、自分に自信も無くなるだろう」
「彼女は役立たずなんかじゃない……」

 自信なさげに笑うアリアを思い出し、フレディは胸が締め付けられた。

(今すぐアリアを抱き締めたい……)

「お前がアリーと出会った庭、あそこを任されたのも王女の嫌がらせだった。あんな離れた場所の庭、王女が訪れるわけもないのに、アリアは黙って手入れしていた」

 アリアとの出会いの場所。フレディにとっては大切な場所だが、それが王女に命じられた仕事のためだったと知り、フレディは複雑になる。

「でもアリアはあの庭での仕事を覚えていなかった……」

 ライアンの話を聞いて、フレディは増々疑問に思う。

「最初は俺のことを覚えていないだけだと思った。でも、すっぽり抜けている。それが記憶を閉ざしている、という話に繋がるんですね?」
「理解が早くて助かるよ」

 ライアンは苦笑してフレディを真っ直ぐに見た。

「アリーはあの庭で、王女に懸想した子息から逆恨みされて襲われている」
「――――っっ!!」

 予想より遥かに悪い話に、フレディは膝の上の拳を強く握った。