「息子である俺に譲爵されることになったが、後は知っての通りだ……」

 気の済むまで口付けをしたフレディは、アリアと寝室に場所を移した。

 様子のおかしいフレディに、アリアはちらちらと窺いながらも、理由を聞けずにいた。

 そんなアリアに気付いたフレディは、ぽつり、ぽつりと過去を話し出したのだった。

「あれから、他人……特に女に触るのが気持ち悪くなってしまったんだ……」
「そうだったんですか……」

 壮絶なフレディの過去に、アリアは何て声をかけて良いのかわからなかった。

「魔法省に入ってからは、周りが煩くて……中には強引に迫る令嬢もいた。王女にも何度も誘われて……」

 辛そうに話すフレディに思わず手を差し伸べたアリアは、ハッとして手を引っ込める。

「そんな時、君が助けてくれた」

 引っ込めようとした手をフレディが掴み、真剣な顔で見つめる。

「え――?」

 まったく覚えのないことにアリアはキョトンとした。

「……王女に迫られて逃げた先の庭で、俺は吐きそうになっていたんだ。覚えてない?」

 悲しそうに微笑むフレディに、アリアは言いようのない感情が胸を掴む。

「すみ……ません……」

 謝るアリアに、フレディは「そうか」と笑ってみせた。

「介抱しようとしてくれたアリアに、俺は酷いことを言って、突き放した。でも君は、そんな俺を見離しはしなかった」

 眩しそうにアリアを見つめて過去を語るフレディ。

(私、何でそんな大切なことを覚えてないの……?)