「フレディ様? 昨日の今日ですよ……?」

 フレディが帰宅すると、サーラが怖い顔で出迎えた。

「な、なな何のことだ?!」

 職場で「リア姿」のアリアといちゃついていた自覚はある。しかし、その場にはスティングしかいなかった。

 助手のスティングはフレディに忠実な部下で、他人に上司のプライベートをペラペラと話す人物ではなかった。

 しかも、フレディを軽蔑して出て行ったはずのスティングは、フレディが説明するまでもなく、「あの方が真の大切な人だとわかりました」と何故か納得して帰って来た。

 フレディはアリアとリアが同一人物なのだとスティングも気付いたんだろう、と思っていた。

「あれほど、人前ではお控えなさいと……」

 今日のことを思い返すフレディに、サーラが怖い顔のまま続ける。

「いや……俺とアリアは局長室で二人きりだったけど……」
「じゃあ何でフレディ様が愛人を囲っていると噂になっているんです!!」
「はあ?!」

 すごい剣幕で怒鳴るサーラに、フレディも声を荒げる。

「しかも! メイドとただならぬ関係などとっ……。あなたがリアをお仕着せのまま呼び、イチャつくから!」
「イチャ……」

 サーラの言葉に頬を染めるフレディ。サーラはその顔を見て、更に怒りをあらわにした。

「いいですか?! あなたは、ローレン公爵家の名前に泥を塗られたのです! 潔癖の女嫌いならまだしも、悪女に骨抜き、愛人にうつつを抜かすなどと……」

 サーラがそこまで言うと、フレディの目が仄暗くなる。

「俺は、ローレン公爵家なんてどうでもいい……そもそも爵位を返上しようとした身だ……」

 フレディのそんな表情を見てサーラはハッとして、言ってはいけなかったことに気付くが、遅い。

 光を失い、石のようになってしまったその瞳のまま、フレディは廊下を歩き出した。

「――っ、フレディ様……!」

 サーラが呼びかけるも、返事はない。

 フラフラと歩くフレディを見たサーラの脳裏に、十年前のことが思い出される。

 姉のレイラと義兄のライアンのおかげで、魔法に没頭してやっと忘れられたと思っていたが、それはフレディの心の奥底に未だ鉛のように沈んでいるのだと、サーラは思った。