「まさか局長が女にだらしなかったなんて……。これも悪女と結婚したせいかもしれない……」

 部屋を飛び出したスティングは局長室の入口、ドアの隙間から、二人のキスシーンをギリリ、と拳を握りしめ見ていた。

「まさか、この前の庭の相手はあのメイド?! フードを被っていたし……どういうことだ? 本命があのメイドで、悪女とは無理やり結婚させられたとか?」

 ブツブツと呟き、再び二人を見る。

 随分と長くキスをしている。しかもフレディが主導しているようだ。

「やっぱり……。局長はあのメイドが好きなんだ。でも公爵だから二人は結ばれない……」

 スティングは一人で自問自答して、勝手に納得した。

「そうか、あの悪女は決められてしまった結婚で、それを隠れ蓑にしてあのメイドと会っておられるんだな」
「おい、スティング」

 二人を盗み見ながら呟くスティングの背後から同僚が書類を持って現れた。

「局長はいらっしゃるか? 魔法薬の認可について――」

 同僚の言葉を遮るように、スティングは人差し指を目の前に差し出した。

「どうした?」
「局長は今、取り込み中だ」

 怪訝な顔でスティングを見る同僚。

「いや、急いでいるんだが……」
「待て!」

 スティングをかわし、扉に手をかけた同僚にスティングは小声で制止する。

「――は?!」

 扉の手を止め、同僚が絶句する。

「取り込み中だと言ったろう」

 同僚をドアから引き離し、スティングは部屋から離れる。

「あれ、どういうことだよ?! 局長は悪女と結婚して、職場でもいちゃついてたと噂が立ったのはつい先日のことだぞ?!」
「まあまあ、落ち着けよ」

 自分も動揺していたくせに、スティングは勝ち誇ったように物知り顔で同僚を見る。

「あの可憐な子、誰だ?! きょ、局長が女に触ってるなんて!!」
「愛人だ」

 にやり、としたり顔で言うスティング。

「あ、愛人? あの潔癖で女嫌いの局長が?」
「何を隠そう、あの相手が本当の――――おい?!」

 スティングが全部言う前に同僚はフラフラと廊下を歩き出していた。

「後でまた来るわ」

 スティングに手を振り、同僚は背中を向けて去って行った。「そうか、局長も男なんだな」と呟いていたが、スティングはまあ、いいか、と思った。

 まさかこのことが騒ぎになるとは思わずに。