(今日は私がソファーね)

 いそいそとソファーに向かったアリアの手をフレディが引く。

「アリア、どこ行くの?」
「へっ? ソファーに……」

 フレディに引き止められ、首を傾げるアリア。

「一緒に寝るに決まってるでしょ」
「ふえっ!?」

 フレディの言葉にアリアは飛び上がった。

「夫婦なんだから」
「で、でででで、でもっ……」

 戸惑うアリアにフレディはクスリと笑う。

「何もしないから、安心して? ほら、お仕事なんだから」

 「仕事」というワードに、アリアはおずおずとフレディの方へ足を向ける。

「きゃっ!」

 急にフレディに手を引っ張られ、アリアはベッドにフレディごと倒れてしまう。

「フ、フフフ、フレディ様?」

 ベッドに横になり、フレディと至近距離で顔が向かい合う。

「アリア、可愛い……」

(ひえっ!)

 甘い顔、甘い言葉を発すると、フレディはアリアの額にキスをした。

「……誰も見てませんよ?」
「……バカだな」

 額から唇を離したフレディにアリアが言うと、彼は愛しそうな顔でアリアを見つめた。

(ひ、ひえ……フレディ様、演技が白熱すぎます……)

 顔を赤くするアリアを見たフレディは、少しムッとした表情を見せると、アリアをぎゅうと抱き締めた。

「君が今何を考えているか、わかるぞ……」
「はあ……」
「まあ、そういう方向で良いと言ったのは俺だしね」
「はあ……」

 フレディの呆れた声が耳元に響く。アリアは訳もわからず生半可な返事をするしかなかった。

「そういえば、今日の料理も美味しかった」
「本当ですか?!」

 フレディの言葉にアリアは喜々として身体を起こす。

「ああ。君は料理も上手なんだね」
「も?」

 フレディがくすりと笑いながら言うので、アリアは首を傾げる。

「悪役令嬢の演技も大したもんだよ」

 悪役令嬢を褒められた、そう思ったアリアの顔が輝く。

「まったく、君は……」

 嬉しそうなアリアにフレディが苦笑する。すると、アリアの目からは大粒の涙がこぼれ落ちた。