「ええと、それは悪役令嬢に扮してなのかしら?」
「はい! フレディ様の妻は、悪役令嬢・アリアですので!」

 なぜか嬉しそうに話すアリアに、レイラはそれ以上何も言えなくなる。

「じゃあ、後はこの魔法薬で髪を赤くするだけだけど……」
「お願いします!」
「じゃあ……」

 意気込むアリアに、レイラはうーん、と逡巡しながらも、魔法薬をアリアの髪に垂らす。

 ラベンダー色の髪は、あっという間に燃えるような赤い色に変わり、悪役令嬢・アリアは出来上がる。

 瞬間、アリアの表情は勝気に変化し、すくっと自信たっぷりに立ち上がる。

「それでは、旦那様にお食事を届けて来ますわ」

 妖しくも美しく笑みを浮かべるアリアに、レイラは「いってらっしゃい」と優しく声をかけた。

 バスケットを手に取り、堂々と執務室を出て行くアリアを見送り、ライアンがはーっ、と息を吐き出した。

「相変わらず、華麗な悪役令嬢への変身だが……フレディが求めているのは、あれ(・・)じゃないよな?」

 アリアが出て行ったドアを指差し、ライアンが苦笑いでレイラを見た。

「うーん、こればっかりは二人の問題ですし……」

 ライアンの側に寄り、レイラは彼の左手に自身の手を重ねた。

「でもあの子が、一人の女の子にそんなに情熱を傾けるなんて……あの頃を思うと、信じられない」

 レイラは嬉しそうに涙を浮かべてライアンを見た。

「俺もだ。もしかしたら、アリアもフレディも、まとめて幸せに出来るかもな」

 レイラの手の上に右手を重ね、ライアンが言うと、レイラは笑みを深めて「そうね」と言った。